士金。事後。 こちらの続きです。
直接エロはなし。












 夜明けが、近い。
無意識に、いつものように身を起こす。
が、いつもとは違う感覚に直ぐ様気付かされた。酷い虚脱感と、魔力の急激な移動に伴う頭痛と眩暈。
…搾り取られたとは、こういう状態を指すのだろうか。魔力も、精液も、思考すらも空になっているのを自覚する。
それらの行き先である、未だ目を醒まさない傍らのサーヴァントに目を遣る。その僅かに眉を顰めた表情を見た途端、空っぽの脳を占拠するかのように昨晩の痴態が現実感をもって一気に蘇ってきた。

快楽に抗いきれず自分の上で跳ねる肢体。
躯が脳髄に伝えてきた貪欲に求め求められる感覚。
やり過ごしきれない熱を必死に逃がそうとする切なげな吐息。
互いに溺れ合う中でそれと共に初めて吐き出された、自分の名前。

「―――は、」
フラッシュバックだけでどうにかなってしまいそうな記憶の数々を慌てて打ち消す。しかし既に手遅れだったようで、眩暈は更に酷くなりつつあった。くらくらする頭を押さえ、彼から目を外し辺りを見回してみる。

 …これは、酷い。
乱れきった夜具といい、眠る彼の虚脱した様子といい、部屋を濃密に埋め尽くすある種の空気といい。気紛れを起こした藤ねぇあたりが部屋までやって来てこれを見たとしたら。
――拙い。拙すぎる。それこそ殺されかねない。
まずは換気だ。それからこいつを起こして風呂に入れてやらないと。何しろ受肉を済ませた規定外の存在なのだから、風邪をひいてしまう可能性もないとは言い切れない。その間に夜具を洗濯すればいいだろう。
開けた窓から入り込む、清冽なまでに澄み切った空気に震わされる。
布団を彼の上にしっかりと掛け、浴室へと向かう。風呂の準備を手早く終え、また部屋に戻る。
英雄王たる彼は、一番風呂以外許容しない。自分の躯に残る体液も早いところ流してしまいたいが、まずは彼が先だ。

 眠る彼を視界に納める。それだけで蘇ってしまう記憶に困惑するが、だからといって躊躇してはいられない。
この空気は彼にとって間違いなく冷たいものだろうし――それに何より、自分の命が懸かっている。
頬を叩いて呼びかける。間もなくして、物憂げに英雄王の瞼が震え、不機嫌そうな紅色の眼が覗く。
存外寝起きが良くて助かった。この分なら不測の事態にも対応できる、そう安堵しながら風呂を勧めようと口を開きかけた、その瞬間。

「…腰が痛い」
彼の発した露骨な言葉に、またしても昨晩の記憶が呼び戻されてしまう。しかも、今回は相手の言葉から想起された記憶だけに尚更性質が悪かった。彼の躯を痛める程に貪ってしまったという事実に対する申し訳なさと、自分の躯を痛める程に彼が冷静さを失い乱れたという事実に対する気恥ずかしさ。襲い来るそれらに、思考が止まる。
だがそれでも、続けて聴こえた言葉の意味を解する余裕はあった。
「命を破った上に猿の如くがっつきおって…これだから経験のない輩は困る。魔力供給にかこつけて性欲処理とはな」
何の気もなく発されたその言葉に、躯が一瞬硬直する。

「――な」

 視界がぐらりと反転する。
おまえは、まだ解っていないというのか。
あれだけ深く繋がって、あれだけ互いに溺れたと、いう、の、に。
無性に湧いてくる怒りが、止まっていた思考を急速に蝕み始める。
それに気を赦した瞬間、言葉が口を衝いて出てしまっていた。それこそ掛値なしの、衛宮士郎の本音が。

「――馬鹿か、おまえは」
寝起きのところをいきなり罵倒され、英雄王が気色ばむ。
「…!王に向かって馬鹿とは何事か雑――」
だがそんなことは知ったことか。咎める声を遮り、怒りのままに自分の感情を吐く。
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんだ馬鹿。分らず屋のおまえが悪いんだ馬鹿。俺があんなことをしたのは相手がおまえだからだ馬鹿。あぁ確かに動くなとは言われていたさ。それを無視した結果無理させてしまったことは謝る。けど、無視したこと自体は絶対謝らないからな。好きな奴が義務的にとはいえ自分の上で腰振ってるんだぞ、しかもちょっと動いただけで凄い反応するんだぞ、これで理性が飛ばないはずないだろ馬鹿」

 王の言葉を遮ってまで一気に罵倒してきた自分を、彼がぽかんと見つめてくる。
言葉が染み渡るまでの、僅かな時間の後。
昨晩の痴態の記憶をまざまざと思い出してしまったのだろう――彼は絶句し、次の瞬間、朱に染まった。
「――さ、昨晩のことは思い起こさせるでない!」
自分から腰がどうだの性欲処理だの言うのはいいが、相手から言われるのはどうも駄目らしい。
真っ赤な顔で言い放ち、貴様の言うことなど聞きたくもないとばかりに布団を被りこちらに背を向ける。
だが、そちらの都合など知らない。ここまで言った以上、解らせないと気が済まない。
「おまえ、初めて名前呼んでくれたよな」
「―――!…雑種!だから我に恥をかかせるなと何度言えば――」
「だから昨日のことを恥ずかしがらせるつもりで言ってるんじゃないって!俺はただ単にそれが嬉しかったって――ああもう、おまえこそ何度言ったら解ってくれるんだ!好きなんだよ!あぁいう状況になったっておまえ以外は欲しくないんだよ俺は!」

 今度こそ、刻が止まる。
はっきりと明言してしまった自分と聞いた途端に固まってしまった相手との間に沈黙が流れた。空気が質量をもって圧し掛かる。それこそ真空とまで呼べそうな、気まずい空白。その重さに耐え切れず、言うべきではなかったと後悔が襲い掛かる。
が、悔いるべきではないと自分に強く言い聞かせて踏み止まった。そう、後悔することなんか何もない。
だって本当のことなんだから。
本来なら聖杯戦争を勝ち抜くために使役するサーヴァントを、好きになってしまった、なんて。
それを知った彼に本義を忘れるとは愚かと愛想を尽かされたとしても、やっぱり自分に嘘は吐けないから。
だからこの際、はっきり刻んでおこう。

「おまえが、好きだ」

 世界を統べた王。人類最古の英雄王。強大な力と莫大な富を所持したウルクの王。
こちらに背を向けているため、彼の表情は読めない。が、彼の耳朶や首筋を、更なる朱が急速に染めてゆくのが見える。
王の中の王が自分の言葉に照れている。たかが一般人の告白に翻弄されている。
まるで、人を従わせ傅かせることには慣れていても、人から好意を向けられることには慣れていなかった、とでもいうかのように。
彼のその不器用な反応に、改めて実感する。
「――俺は、おまえが、好きだ」
自分の想いを反芻し、それを先刻よりも時間を掛けて、噛み締めるように言葉にしてみる。
「……そう何度も言わずともよい。聞こえている」
しばらくすると、観念したかのように小さく呻いて、彼は身を起こしこちらを向いた。
顔に朱は既にない。目線も合わせない。否応なしの拒絶を、そこから嗅ぎ取ってしまう。

「――あぁ、そうだったのやもしれぬな」
渋面をつくり一人ごちる英雄王を前に、これからどうすればいいかを思案する。
「解ってはいたのだな。単に敢えて気付こうとせなんだか」
好きだ。だから、やっぱり失いたくない。
「少し考えれば解ること。思えば昨晩自覚するべきであったか」
今からでも冗談だと笑い飛ばそうか。――却下。
「何故あの様相を呈したか。それを思索すれば自明の理」
とにかく力押しで納得してもらおうか。――無理。
「なれば今からでも言うしかあるまい。些か癪ではあるが」
――やはり、今のは本当だけど、忘れて欲しいと言おう。
いつもこいつに振り回されているんだから、たまにはこちらの我儘を聞いてくれても罰はあたらないと思う。
雑種、と彼が呼びかける声に応え、未だこちらを向かない彼の顔を見据える。
彼から切り捨てられる前にこちらから妥協策を切り出そうと、口を開いた。

「貴様は不意を衝き過ぎる」
告白への返答としてはあまりに突拍子もない冒頭に、口から出掛かった言葉が霧消する。
「今のことにしても、……昨晩のことにしてもだ。我が己の意思を無視して話し掛けられるのを厭うているのは知っていように」
こちらに眼を向けぬまま、英雄王は言葉を紡ぐ。
「我が厭うのは話し掛けられる限りではない。だというのに貴様はそれを考慮しない。王である我が何事においても先を駆くのは当然のことであるのに、だ。実に面白くない。不愉快だ」
強い意志を秘めた王者の眼が漸くこちらを向く。そこにはどこかしら拗ねた光が宿っていた。

「解らぬか。……その言葉は我が先に言う筈だったと言っている」

 いや、普通解らないぞそれは。
そう反射的に返そうとして、はたと止まる。
文脈上、その言葉、とは先刻自分が彼に告げた想いになるわけで。
次第に脳に染み渡る彼の言に、思考が半分壊れる音を聴いた気がした。
待て、いや、それは、つまり。
「まぁ、自覚がなかったゆえ今回は赦す。――だがな、これは本来名を呼ばれた時に貴様が気がつくべきことなのだぞ雑種。好意を持たぬ雑種の名を我があの状況で呼ぶ筈もないのだからな」

 やはり、そういうことなのか。彼も、自分を。
埒外の可能性としか捉えていなかった事実を突きつけられ、思考はもはや瀕死の体。
呆けた表情の自分を、彼の眼が捉えるのが見える。未だに覗える、拗ねたような光。
「だから、馬鹿は貴様だ」
あまりに強引過ぎる論理を偉そうに断言してくる英雄王の声が耳に響いた。

――馬鹿と言われたことを根に持ってやがる。何処の子供だ、おまえは。

 彼の言葉に苦笑いした瞬間、鈍く惚けていた感覚が一気に息を吹き返した。
機能を停止していた脳が、溢れる愛しさを燃料に活動を再開する。
――あぁ、そうだとも。俺はこういう奴を好きになったんだ。
尊大で傲慢で横柄で我儘で自分勝手な子供染みた馬鹿。
自身を誇り自身を蔑む、どこかしら放っておけない半神半人の英雄王。

「そうだな。俺が馬鹿だった」
そうだ今頃解ったのか馬鹿め、と満足げに頷く彼に真面目そうな顔をつくって向き直る。
「あぁ。馬鹿だから、はっきり言って貰わないと解らないんだ。だから、さ」
片膝をつき、頭を下げる。抑え切れない笑みが零れてしまう。
――やっぱりおまえは馬鹿だよ、英雄王。格別無類、それこそ最上級の愛すべき馬鹿だ。
「王のお慈悲をもってこの馬鹿な雑種めにお教え下さいますか――先に言う筈だった言葉って奴を」

「な」
墓穴を掘ったことに今更気付かされ、英雄王が狼狽する。
「――ど、どうせ解っておるのだろう!雑種、我を揶揄するのも大概にするがいい!」
真っ赤な顔で烈火の如く激高する王に、いや解らない、何しろ俺馬鹿だから、と白々しく返してやる。
自らの不注意を悔いるように呻き、忌々しげな顔で彼がこちらを睨み返してくる。
「…一度しか言わぬ。胸郭に叩き込め」
ぼそりと、それでも王の威厳をもってなされた宣言の後。
聴くことが叶うと想像さえしていなかった彼の言葉が、蕩けそうな甘さで脳髄に染みた。

























何故にこんなに甘々に
何故にギル様照れキャラに
何故に士郎はこんな乙女に
・・・(恥ずかしさのあまり逃走)


何故か甘々になってましたすみません。何だこのバカップル!地獄に堕ちろ!(むしろお前が堕ちろ
最初はもっとぴりりとした感じにするつもりだった筈なのですが、勢いに任せて打っている間に
ヘタレ攻好きな自分の隠し切れない本性がもそもそと顔を出してきてしまったようです。
あと照れキャラ好きというかヘタレ攻による天然羞恥プレイ好きの本性も出たみたいで。
ギル様がいつの間にか照れキャラになってました。萌えキャラ生徒会長柳洞一成も真っ青です。
いやでも他者の存在が無視できなくなった時の自己中な人ってとても面白いと思うのですよ。
いつも自分のペースで生きているからそれを崩されるのに耐性がないというか。
だからギル様は思いも寄らぬ他者の介入に弱いと思います。でもそれにしてもやりすぎましたすみません。
とりあえずギル様のうっかりによる羞恥プレイをかましてみたので赦してください。
本人だけは打ってて凄く楽しかったです。この二人可愛すぎます。つか勝手に動きすぎて困ります遠坂…



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